第20話 閉ざされた心


     全てが終わって安堵していた。
     茨木の回収の連絡を終え、やっと一息をつくことができた。

     向こうのほうでは騒がしく、賀茂家の娘が茨木を盗んだ藤原とか言う男の名を呼んでいる。

    「まっちゃん、電話終わったか?」
    「ああ」
    「取り憑かれた奴は、しばらく目ぇ覚まさんやろ。一応鬼の気にあてられとるとあかんから、祓いすんで?」
    「すまんな。悪いがそうしてくれ。29代目蘆屋道満の祓いなら、折り紙つきじゃろう」
    「まぁ俺は今回のことで傷が少なくてすんだからなぁ。賀茂家のお嬢ちゃんは当面霊力の回復に専念せなあかんやろうし、蒐牙も式神が受けた傷をモロに返されとるから、結構やばそうや。まっちゃんかて、結構霊力消費したやろ」
    「ああ、正直ここ数年で一番しんどかったわい」

     思い返せば、ここ数年どころの話ではないかもしれない。
     茨木童子との戦いはそれだけ過酷だった。
     鬼を3匹連れていようが、あのままなら勝てなかっただろう。

     そう、清村がいなければ……

    「ん? そう言えば椿ちゃんがおらんな……」

     陵牙のそのさりげない言葉で、俺は初めてその場に清村がいないことに気がついた。

    「あの子、腕に怪我しとったやん? 手当てせなあかんと思ったんやけど……それに、あんときのこと、ちゃんと説明せなあかんやん……?」

     そうだ、清村はまだ全てを知ってはいない。
     俺たちが清村を突き放した理由を。

    「いくら茨木の持ち主が幼馴染って分かって、これ以上俺らとつるむのが危険って判断されたかて、あんな突き放し方してしもたわけやしなぁ……」
    「ああでもせねば、あいつは納得せんかったろう」
    「そりゃそうやけど……未だに胸が痛とうてかなわんわ。ダチを騙すんは性にあわんねん」

     そう、俺たちは度重なる茨木の襲撃から、あの藤原星弥という男が茨木を盗み出した犯人であると割り出した。
     調べればあの男は清村の幼馴染だという話だった。
     あの藤原という男は茨木に半分以上が精神を食われていた。
     このまま清村が俺たちと行動すれば、確実に茨木奪還時の戦いの巻き添えをくうだろう。
     そんなことはさせたくなかった。
     それに、幼馴染の様子の変化に、鋭い清村は気がつき始めていた。

     これ以上俺たちと行動することは、清村の身の安全に関わることだった。
     いざとなって守りきれなければ、意味が無い。
     だから小鳩だけを傍に置き、最悪の事態を回避しようと思ったのだ。
     しかし、突き放した直後に清村が小鳩を式から外したことは予想外だった。
     自らが鬼を寄せ付ける体質と知っていて、小鳩を手放すとは思っていなかったからだ。

    「だぁぁぁぁ!! こんなことならケーバン交換しとくんやった! 何か結局よう会うから交換してへんかったとか俺の馬鹿かあああああああ!!」

     陵牙は頭を抱えて左右にそれを振っている。
     そんなことをしたところで、清村の連絡先が振ってくるわけでもあるまいに。
     とはいえ、俺も清村の連絡先は知らなかった。
     全て連絡は小鳩に任せていたから、迂闊だった。

    「あの……」

     ふと、俺たちの会話に割って入った人物。
     それは賀茂家の娘だった。

    「私、清村さんの連絡先なら知ってますわよ?」
    「本当か?」
    「ええ、これ、清村さんの番号ですわ」
    「すまんな」
    「いえ……それにしても、影井くんが陰陽師だったとは知りませんでしたわ。酒呑童子を所有しているということは、土御門家の……?」
    「俺はその名を捨てた。土御門家の家系は弟が継いでおる。俺には関係のないことだ」
    「そうですか……」

     流石は賀茂家の人間。
     式鬼神から俺の家柄を見抜くのだから侮れない。
     正直、正体を見破られるのではないかとひやひやしていたが、清村が黙っていてくれたのは幸いだった。

     俺は自分の携帯から清村の番号を打ち込み、発信ボタンを押した。
     呼び出しのコールはかかるが、応答はなかった。
     知らない番号からだから、警戒して出ないのかもしれない。
     留守番電話に切り替わったので、俺はメッセージを残すことにした。

    「影井だ。話がある、折り返しかけてこい」

     俺がメッセージを残しても、清村から折り返しの電話はなかった。
     あんな仕打ちをしておいて、折り返しの返事を求めるのは間違っているのかもしれない。
     一応、メールでも補足をしておく。

    『影井だ。何故一人で帰った? 傷の手当がまだだろう? 今、どこにいる? 茨木を捕らえて安全が確保できた。だからお前に突き放した理由を全てを話そうと思う。皆屋上におる、戻って来い』

     だが、いくら待っても、清村からの返事はなかった。

    「返事、ありませんわね。私もメールを送ったり留守電にメッセージを残したんですが……」
    「……清村には清村で、考えたいことがあるのかもしれんな。もしかしたら、もう俺の話を聞く気すらない可能性も否定できんが」

     それでも俺は携帯が気になって仕方がなかった。
     いつ清村から返信があってもいいように、それを手放すことはできなかった。
     今すぐにでも清村のところへ行って話しをしたいと思ってはいたが、結局その日は茨木を回収に来た陰陽師協会の使者たちとの雑務に追われて、日付も変わるような時間になってしまった。
     陵牙たちは陵牙たちで、藤原星弥の後祓いに思った以上に手間取っていたようだった。
     清村が気にはなっても、人一人の命に関わることを後回しにはできなかったのだろう。

    『清村、明日学校で待っておる。屋上で、お前が来るまで』

     もう、これ以上取り繕う言葉もなかった。
     だから、俺は明日いっぱい待ち続けようと思った。
     清村が来ないのならば、明日の帰りに家へ赴いてでも話をしなければならないだろう。

     あんなにも傷つけてしまった侘びをしなくてはならない。
     許してもらえなくとも、信じてもらえなくとも聞いてもらいたい。

     俺は、冷静にものを考えられなくなっていたのかもしれない。

     清村に惹かれ始めている自分に気がついてしまった。
     いざとなったら、茨木を奪還するという最大の目的すらも投げ出して清村を選んでしまいそうな自分がいた。
     俺は、これ以上は清村と一緒にいるのは得策ではないと判断せざるを得なかった。
     清村が俺たちといるということは、茨木との戦いに巻き込まれる危険性を帯びると共に、俺が冷静な判断を下せなくなるというデメリットしかないように思えたからだ。

     今思えば結局俺は、清村の気持ちよりも、仕事を優先してしまった。
     それは陰陽師としては、的確な判断と言えるかもしれない。
     鬼の害から人を遠ざけるのは当然のこと。

     しかし、人として……いや、清村の友として、惹かれている一人の男としては……?
     そう考えると、清村自身の気持ちを無視してしまったことを後悔した。
     清村に惹かれてしまった時点で、冷静な判断など下せてはいなかったのなら、もっとマシな方法もあっただろう。

     結局俺は一人で茨木を取り戻すことができず、清村に助けられたのだから。

     こんな結果になるのならば、せめて清村の望むようにそばにいてやればよかった……
     無力で不器用な自分がここまで恨めしいと思ったことは、今まで一度もなかった。  

    「雅音様……」
    「小鳩か、どうした」

     借りたアパートの一室で、小鳩は不安そうに空を見上げていた。

    「すごく、嫌な空気が取り巻いていますの」
    「なに?」
    「何も……起きなければいいのですけれど……」

     小鳩はずっと空を眺めていた。
     不安そうな面持ちをされると、こっちまで心穏やかではいられなくなる。

    「小鳩。お前も茨木との戦いの傷があるのだ、体を休めておけ」
    「……はいですの」

     時間も時間だったから、俺は明日に備えて眠りについた。
     それでも、携帯電話だけはずっと手放せずにいた。
     こんなに胸のうちが穏やかでなかった日など、生きてきた中で一度も無い。

     俺は明日、きちんと清村と向き合って話ができるのを願うことしかできない。

     だが俺は知らなかった。
     俺が暢気に明日のことなど考えている間、清村がどうしていたかを。
     清村が俺たちの連絡を、どんな状況で聞き流していたのか。

     どんな状況で、この夜を明かしていたのか……


    ************************************


     次の日、携帯を確認しても清村からの連絡は無かった。
     やるせない気持ちが胸を満たしていく。

     俺は教室に赴いたが、そこに清村の姿はなかった。

     屋上で空を見上げれば、曇天の空が広がっている。
     まるで、清村に初めて会った日のような空だ。

     しばらく待っても、清村は来なかった。
     こうなるように仕向けたのは俺自身。
     そうと分かっていても、少しくらいは清村が俺の話を聞きたいと望んでいてくれるのではないかと、変に期待していた。
     都合のいい考えだと、自分を嘲笑ってしまいそうだ。

     何時間待っただろうか。
     気がつけば、昼休みになっていたのだろう。
     屋上に陵牙と蒐牙がやってきた。

    「まっちゃん、その様子じゃ椿ちゃんは来てへんのか?」
    「ああ……」
    「そか。椿ちゃんの幼馴染のほうは、大丈夫や。後祓いも無事終わったから、大事には至らんですんだ。まぁ、流石に鬼に手を出したんやから、大事なものは持っていかれたようやけどな」
    「因果応報……仕方あるまい」

     結局、藤原星弥の処分はほとんど無いに等しいものになった。
     それもそうだ。
     藤原星弥は、事件にまつわる記憶を全て失っていたのだから。
     そして、奴にとって最も大事なものも。

     だからこそ、協会は藤原星弥への罪をこれ以上言及できなかったのだろう。

     逆に賀茂家の娘への処罰は、甚大なものになっていた。
     賀茂家の娘、賀茂深散は京都の陰陽師協会傘下の学校に近々引き取られることになった。
     そこでもう一度陰陽師とはなんたるかを叩き込まれることになるだろう。

     全てが解決の方向へ向かっているのに、清村だけが置いてけぼりをくらっているようだった。
     何も知らず、心を閉ざさせたままこの地を去ることは俺にはできなかった。
     清村を傷つけたまま、離れることはもう俺にはできない。

     昼休みが終わり、陵牙たちがいなくなっても、俺は清村を待ち続けた。
     いつの間にか、日が暮れていた。
     もう、学校へ通う生徒の声すらまばらになっていた。

    「もう、家に行くしかないかのう」

     そう独り言を言った瞬間だった。

     どこからとも無く、巨大で冷たい霊気が爆発した。
     俺は思わず立ち上がってそっちを見る。

     巨大な、怪獣映画に出てくるそれほどはある鬼が、町を闊歩していた。
     半分体が透けているところを見ると、まだ鬼になりきれていない、怨念や思念の塊のようなものだろう。

     直後、俺の携帯が震えだした。
     俺はろくすっぽ相手も確認せずに電話を取る。

    「もしもし?」
    『あ!? まっちゃん!? あれ、見たか?』
    「ああ、悪鬼の幼体だな……」
    『阿呆! そんなん見れば分かるわ! 見なきゃならんのは心臓の部分や!!』

     目を凝らして悪鬼の心臓部分を見てみる。
     人影がうっすらと見える。

    「つ……椿様!!!」
    「なんだと!?」

     小鳩は横で焦りながら清村の名を叫ぶ。

    『あの悪鬼、この町の鬼門の方向へむかっとる……完璧な鬼になるために、冥府へ向かってんねん!!』
    「くっ! 止めに行くぞ陵牙!!」
    『言われなくとも!!』

     俺は急いで学外へ出た。

    「あなたのお足じゃ間に合いません、私に乗ってくださいな」
    「小鷺……」

     急いで小鷺の真名を呼び、俺は後鬼の背に乗った。
     やっとその悪鬼の足元へ行くと、陵牙は既にそこに立っていた。
     横には蒐牙の姿もある。
     だが、二人とも浮かない顔をしていた。

    「何故清村が悪鬼に捕らわれておるのだ!!」

     その問いに答えたのは蒐牙だった。

    「学校が終わった後、僕は兄上に言われて清村先輩の家へ行ってたんです」

     じれったかった。蒐牙は何を言わんとしている?
     何故こんなことになった!?

    「清村さんのご両親、殺されていましたよ」
    「なんだと!?」
    「鋭い爪で引き裂かれた姿……間違いなく茨木です」
    「馬鹿な……」
    「協会に連絡して調べてもらっていますから、すぐに犯人は分かります」

     蒐牙は眼鏡をかけなおし、痛々しい表情をして言った。

    「清村先輩……多分、ずっと両親の死体と過ごしていたんだと思います……死体に、綺麗に毛布がかかっていました」
    「清村……」
    「色んな思いが全部砕けて、全部虚無に変わってしもたんや……せやから元から鬼を寄せる椿ちゃんはこんな巨大な悪鬼を生み出してしもたんよ」

     陵牙の言うことは最もだ。
     何故、茨木に対する警戒をもっと強めなかった……
     茨木にたぶらかされた藤原星弥が、このような強行にでることなど、当然判断できただろうに!!

    「まっちゃん……悪いけど俺、今回ばかりはまっちゃんの作戦に乗ったこと、後悔しとるわ」
    「陵牙……」
    「ダチを突き放すようなこと、どんなことがあってもあっちゃならんかったんや……俺ら、椿ちゃんをここまで追い詰めて、一人ぼっちにしてしもたんとちゃうんか?」

     間違っていない。
     そうだ、俺たちに突き放されて、唯一の味方だった両親を失った清村は心の拠り所を失った。
     だから、悪鬼に取り憑かれても抵抗すらできないでいる。

    「くそっ!!」

     俺は、悔いることしかできなかった。
     なぜ、あんな方法しか取れなかった。
     なぜこの結末を予測できなかった!!!!!

    「前鬼、後鬼……魂縛の鎖(たましばり)の鎖を使うぞ」
    「雅音様……あのような大きな悪鬼を我ら二人で止めるのは不可能ですぞえ?」
    「無理だと最初から諦めるようなことは絶対にせん……準備をしろ!!」
    「……分かりました」

     昨日の戦いで霊力をだいぶ消費してしまった俺に何処までやれるかはわからないが、みすみす清村を冥府に落とすわけにはいかない。

    「それ!」
    「はっ!!」

     前鬼・後鬼は各々に自分の霊力を鎖にしたものを悪鬼の両手に巻きつけた。しかし、思った以上に悪鬼の力は強い。
     前鬼、後鬼、二人がかりでも、その足は止まらない。

    「くっ……引きずられる!!」

     これだけの辛い思いを清村は抱いていたのだ。
     俺の思いでは、とめられないほどに辛く苦しい思いを抱いた結果がこの悪鬼というならば、なんと分かりやすいほどに肥大化した悲しみだろうか。

     考えてみれば、何一つ平気なはずがない。
     学校での嫌がらせも、修学旅行で殺されかけたことも、幼馴染への心配事も、清村が気丈に振舞うがばかりにいつも見過ごしている。

     それに俺は追い討ちをかけたんだぞ……?
     学校を普段休まない清村が休んだ時点で、何故それが分からなかった?

     俺は……愚かだ……!!

    「いけ! 鬼道丸!!」
    「絡新婦、お前もです!!」

     ふと、横から叫び声と共に、陵牙の鬼と蒐牙の蜘蛛が鎖を鬼の両足へ絡みつかせていた。
     それでも、悪鬼の歩行はゆっくりになっただけで止まることはない。

    「ぐっ……椿ちゃん!!」

     陵牙は霊力を鬼道丸に送りながら必死の形相で叫んだ。

    「今回は俺らが悪かった!!」

     馬鹿な……届くはずもないのに、なぜ声を張り上げる?

    「俺、もっとちゃんと考えるべきだったん!! でも、俺馬鹿やから……俺の取った態度でどんだけ椿ちゃんが傷つくか、苦しむか考えへんかった!!」

     あんまりにも情けない言葉だ。
     それでも、陵牙はまったく恥じずに清村に呼びかけ続けた。

    「椿ちゃん……謝るから仲直りしよや……? 前みたいに、また楽しく一緒に弁当食おうや……」

     正直、驚いた。
     一度も見たことのない光景かもしれない。
     陵牙が涙を流して、震える声で訴えているのだから。

    「俺……椿ちゃんのいない昼なんて、男くさくてもう嫌やねん……!! だから、鬼になったらあかん……鬼道丸、俺の霊力全部くれてやってもええ、絶対に椿ちゃんを冥府にいかせるな!!!!!」

     鬼道丸の引っ張る右足が、動かなくなる。
     まるで陵牙の心を映し出しているように、鬼道丸は今までに見たこともないようなすごい力で悪鬼の足を引っ張っていた。

    「僕も同感です。清村先輩をつまはじきにするような方法を取ったことは反省すべきです。清村先輩は結局茨木の件でも僕らを助けてくれた……力になってくれた。もう少し考えるべきでした。清村先輩を傷つけたまま鬼にしてしまうようなこと、見過ごせるわけがありません!!」

     まさか、あのさほど力のない絡新婦でさえ、前鬼や後鬼より力を発揮しているというのか?
     足は、完全に前へ進むことをやめている。

    「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

     清村の叫び声と共に、悪鬼は前倒しになった。
     俺の支えている、まだ動く部分をばたつかせて必死に前へ進もうとしている。

    「椿様! 椿さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

     俺の札から、勝手に小鳩が飛び出した。
     勝手に飛び出すのはいつものことだったが、驚いたのはそこからだった。

    「うわああああああああああああああああああ!!!」

     小鳩にかけた、真名の封印が勝手に解けたのだ。
     札に書いてあった小鳩という偽名が消え、酒呑童子の名が刻まれた札は赤い炎を放って燃え尽きてしまった。
     俺と小鳩の式鬼神としての契約が破れたのだ。

     それは、茨木以上に危険な鬼が世に放たれた瞬間ともいえる。
     しかし、酒呑童子として覚醒した小鳩は魂縛の鎖を作り出し、悪鬼の胴体に巻きつけた。

    「椿!!! すまねぇ……お前が傷つけられた時点で、こうして雅音の式鬼神なんかやめてりゃこんなことには……!! 主従なんぞ関係なしにお前を守ってやればよかった……本当にすまねぇ……!!」

     酒呑童子は元より自分で力を封じていたというのか?
     式契約など、切ろうと思えば切れただと……?

     それほどまでに、あの短時間で清村と酒呑童子は強い絆をつむぎあげていたというのか!?

    「椿……おめぇが鬼になったら嫁さんにもらうのも悪かねぇが、やっぱり俺は人間のおめぇが好きだ……だから、絶対に行かせねぇ!!!」

     これが、清村の力なのか。
     人の心を、鬼の心をもこんなに大きく動かしてしまうほどの心を持っていたというのか?

    「清村さん!!」

     背後からの声に振り向くと、そこには賀茂家の娘が式鬼神の紅葉を連れて立っていた。
     ただならぬ気配を感じ取ったのだろう。

    「あなたを冥府には行かせない……!! 私たち、まだ友だちになったばかりじゃないですか!!」

     その言葉に反応するように、賀茂家の娘の式鬼神は魂縛の鎖を悪鬼の首に投げつけた。

    「これからたくさんたくさん遊ぶんですのよ……? 恋の相談したり、おしゃれの情報交換したり……勝手にいなくなるなんて、私許しませんわよ!!」

     鬼は前へ完全に進めなくなっていた。
     じたばたと手を動かすだけで、鬼門へは一歩も近づけないようだった。

    「まっちゃん、はよ椿ちゃんを迎えに行き!!」
    「陵牙……」
    「まっちゃんしかおらんねん。お前のほんまの気持ち、きちんと椿ちゃんに示してこいや!!」
    「雅音様、先輩を連れて返ってこなかったら流石の僕でも失望しますよ!」

     俺はその言葉に後押しされて、悪鬼の足元から中へ入り込んだ。
     そこで俺は、自分のしたことの愚かさを知ることになるのだった。

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